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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)10105号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

1 原告は、東京都港区芝二丁目八番一〇号所在、大野某所有宅地51.04坪の上に四階建分譲マンション(大野ハイツ、二階四戸、一、三、四階各二戸)を建築、大野に二階全部を提供し、原告がその余を取得して他へ売却することを計画し、昭和五四年一一月八日、サンユー建設株式会社に対し右建築を代金八二〇〇万円で請負わせた。サンユー建設は同日着工し、原告は着工と同時に買受人の募集を始めた。

2 被告は、同区芝二丁目五番一八号所在のビルの一室約三〇坪を賃借して歯科医院を経営していたが、その頃、よりよい条件の賃借物件があれば移転したいと考え不動産業者にあつせんを依頼していたところ、芝園住宅株式会社から大野ハイツの紹介を受け、同年一一月二〇日原告と面談した。その際原告は、甲第四号証の設計図を示し、一階一〇一号室は一応中華料理店が予約しており、その方が優先する、一〇二号室は面積約一九坪、代金四〇〇〇万円で売却する物件である旨を告げた。被告は、賃借物件ではないこと、面積が狭いことを告げ、資金調達の面、診療規模維持の点から検討したいと述べ、直ちに歯科医院設備の専門業者である株式会社デンタルハウジング外二社に大野ハイツ一階の両室についてレイアウトと見積りを依頼した。

3 同年一二月二七日、原告は被告に対し、一〇一号室の方は先に述べた中華料理店に決定した、一〇二号室の方も多数の申込みがあるから早く態度を決定してほしいと要望し、代金は三六〇〇万円に減額してもよいと述べた。被告は、なおレイアウトを検討中であると言い、原告に対しデンタルハウジング作成のレイアウト図(甲第一号証)を交付したうえ、現在使用中のユニット(歯科診療台)四台を置くと、コンプレッサー、エアバキューム等診療に要する機械を置くスペースがない、技工室も現在常時二、三人の技工士を必要としているのに一人分のスペースしかない、医局、ロッカールーム、空調設備等のスペースがとれないと説明し、二階の一室を使うことができるのであれば広さとしては可能であると述べた。原告は、二階は全部大野所有となるので一存ではいかないと断つたが、被告はなお検討したいので結論を出すのは待つて貰いたいと述べ、原告に対し一〇万円を支払つた。原告は内装も同時に施工されれば安くつくはずであるから、見積りに参加させてほしいと述べ、右レイアウト図を持ち帰つた。

3 昭和五五年一月中旬頃、どのようにしても現在使用中の什器、備品等を使用し、かつ規模を縮少せずに本件物件に移転することは無理であるとの結論が出たが、被告は、なお二階の一室をあわせて使用できれば移転は可能であると考えていたので、断ることはせず、一月下旬頃原告に対し歯科医院は電気を大量に使用し、16.7KWH必要であるが、大野ハイツの電気容量はどうなつているかをたずねた。原告は全体で五〇KWHであり一階は二〇KWH、二ないし四階は各一〇KWHとなつている、一〇一号室で14.5KWH必要なので、一〇二号室は5.6KWHの容量しかない、電気容量をふやすには変電室を設けなければならず、それだけ費用がかかると述べ、その後あらためて電気容量を計算しなおし、一〇一号室のためのゆとりの分も含めて大野ハイツ全体として八三KWH必要であるとして、被告の意向を確かめないままサンユー建設に対し一階階段奥の受水槽室を変電室とし、受水槽は一〇一号室の地下に設けるよう設計変更を指示した。

4 同年二月二〇日、原告は、変電室を設け東京電力と電気容量変更契約をしてきたことを被告に告げ、五〇〇万円位余計にかかるので先に三六〇〇万円に減額すると言つたがやはり四〇〇〇万円でなければ売れない、内装もさせてくれるのであれば三八〇〇万円でよい、と述べたが、被告は特に異議を述べることはなかつた。

5 被告は、レイアウトの検討をする一方で取引銀行に購入資金の借入れについて相談していたところ、医療金融公庫から借入れた方がよいとの助言を受け、その融資申込みのための必要書類として見積書の作成を数社に依頼していたが、同年三月頃原告にもその作成を依頼した。

6 同年三月下旬頃、原告が大野と交渉した結果、大野が二階の一戸を月額九万円か一〇万円で被告に賃貸してもよいということになり、原告が被告にその旨を伝えたが、被告は一階が買取で二階が賃貸では将来問題が残ること、一階の代金三六〇〇万円が四〇〇〇万円になつたうえ賃料を支払うことになれば毎月の支払金が多額になり負担が大きいとして断る意向を示した。原告が再考をうながしたが、三月三一日、貸付金利も高く資金的に無理であるから買うことはできないと断つた。

7 五月下旬頃、大野の希望によつて大野が四階の一戸と二階の三戸を取得し、原告がその余を取得することになつたので、原告はあらためて被告に対し一〇一号室と二階の一戸を一括して売つてもよいと申出たが、被告は買取の意思はないと断つた。

8 大野ハイツは、六月下旬完成の予定であつたが、約一か月おくれて引渡を終えた。サンユー建設は、3の設計変更が決定するまで二〇日間工事を中止していた間の鋼材リース代、大工手間賃を含め、右設計変更に伴う工事代金増額分四二一万〇二二五円を請求、原告はこれを支払つた。

以上の事実が認められる。<中略>

三 予備的請求<中略>について検討する。

1 被告は、契約締結上の過失は契約が締結されたことを前提とするものであると主張するが、取引を開始し契約準備段階に入つたものは、一般市民間における関係とは異り、信義則の支配する緊密な関係にたつのであるから、のちに契約が締結されたか否かを問わず、相互に相手方の人格、財産を害しない信義則上の義務を負うものというべきで、これに違反して相手方に損害を及ぼしたときは、契約締結に至らない場合でも契約責任としての損害賠償義務を認めるのが相当である。

2 これを本件についてみるに、先に認定した事実によれば、被告は、大野ハイツ一〇二号室の売買に関し昭和五四年一一月二〇日から原告との交渉に入り、昭和五五年一月中旬頃既に基本的には本件物件がスペースの面で自己の希望する条件に適合しないとの結論に達していたにもかかわらず、その後電気容量が不足であることを指摘して原告をして電気容量増加のための諸行為(変電室を設けるための設計変更と施工、東京電力との契約内容の変更等)をさせ、原告から右変更の手続をしたこと及び約五〇〇万円の出費となることをきいても別段中止を求めることはせず、その後も二階部分の賃借交渉、見積書の作成を依頼するなど右設計変更を容認する態度に出ていたのであるから、自らの都合で契約締結に至らなかつた以上、右契約締結準備段階における行為により原告に生じた損害を賠償すべきものと考える。

(大城光代)

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